十日町の古民家カフェをたずねる

竹所のイエローハウス

 

ふかまりゆく秋。

 

急に旅をしたくなり、東京から車を走らせ新潟へ。泊まる宿もきめないまま向かったのは、十日町の山深くの竹所という集落。

 

わたしがこの地をおとずれたのは、ドイツ人建築デザイナーのカール・ベンクス氏が古民家を再生させて建てたという家を、是非この目でみてみたいとおもったから。

 

その日は日曜。古民家カフェは土日だけの営業でしたが、車の移動に予想よりも時間がかかってしまい、お店がクローズする時間がせまっていました。

 

秋の山里

 

せっかくここまで来たんだから、いくだけいってみよう。

 

わたしはナビをたよりに人も車もいない山道をとおり抜けていきました。集落にはいると鮮やかな色をまとった建物が視界にはいってきて、それがカール・ベンクス氏が建てたドイツ式の建築物であることに気がつきます。

 

人里はなれた、ちいさな、ちいさな集落は、夕暮れのときをむかえ、まるで眠っているかのように、ひっそりと静まりかえっていました。

 

イエローハウスとよばれる古民家カフェに到着したのは、お店の営業がおわってから30分もたったころ。もう山のむこうに日は落ち、あたりは暗くなりかけていました。

 

そとの気配に気づいてでてきてくれたのは、スタッフさんらしきひと。

 

「すみません。お店もうおわりなんですよ…」

「でも…ちょっと待ってくださいね。いまオーナーにきいてみますから…」

 

そのひとはいったん店の中にもどり、すぐにでてきて、「大丈夫です。なかにお入りください」といってくれました。

 

「すみません、こんな時間にやってきて。ご迷惑じゃないですか」

「いえいえ、ぜんぜん!」

 

オーナーさんは遅れてやってきた訪問者をやさしい笑顔でむかえてくれました。

 

もう中にいれてもらうのは無理だろうと、すっかりあきらめていたので、わたしは恐縮しながらもうれしい気持ちをつたえ、オーナーさんと、最初にお店のそとにでてきてくれた方の心温まる対応に感謝しました。

 

山奥の集落で、やっと人に会えて安堵した気持ちもあり、わたしはすこし興奮ぎみでした。

 

わたしはオーナーさんのお言葉に甘えてコーヒーを注文させていただき、コーヒーが出来上がるまでのあいだ3階まであるイエローハウスのなかを見学させてもらうことに。

 

古民家の二階スペース

 

 

おしゃれな階段1

 

 

おしゃれな階段2

 

二階の天井

 

太いむきだしの古材が組まれていて、そのひとつひとつがデザインのようにみえます。

 

 

照明、建具、コーヒーの香り、室内に流れるゆったりとした音楽…まるですべてがあたたかい色につつまれているような。

 

二階からの風景1

 

二階からみた風景2

 

オーナーさんが淹れてくれたコーヒーをいただくころには、そとはすっかり暗くなっていました。

 

きけばオーナーさん、平日は東京でべつの仕事をされていて、土日は竹所でカフェを営まれているとのこと。東京のオーナーさんのご自宅は、意外なことに、わたしの住んでいる場所からそう遠くないことがわかりました。

 

そしてもうひとつわかったのは、その日はカフェの最後の営業であったこと。

 

例年、冬季のあいだは休業しているそうで、その日はシーズンおわりにあたる日でもあったのですが、例年とちがうのは、その日から当面のあいだ、お店を再開する予定がないことでした。

 

オーナーさんは、数年後にはカフェを再開したいとおっしゃっていましたけれど、今後の予定はいまのところ白紙なのだそうです。

 

なんという偶然。図らずもわたしは、お店がながい休業に入るまえの、最後の訪問客となったのでした。オーナーさんは、最後の最後に、ちょっと風変わりな青年がやってきたことを、たいへんおもしろがってくださいました。

 

黄昏のイエローハウス

 

贅沢な時間はあっというまにすぎ、わたしは竹所にわかれをつげ、その晩に泊まる宿へ――道すがら、わたしはじぶんの車のヘッドライトが漆黒の闇を切りさいていくのをみつめながら、偶然というものについて考えていました。

 

いつか、おとずれてみたいとおもっていた十日町の古民家カフェ。その古民家カフェは、ながいお休みにはいります。

 

この日、もし思い立って出かけていなかったら、わたしはきっと後悔していたでしょう。

 

季節がいつのまにか過ぎ去っていってしまうように、出会いというものも、こちらが呼びとめなければいつのまにか通りすぎていってしまうものなのかもしれない、とおもわずにはいられなかったのでした。