わさびご飯をたのしむ

生のわさびが手にはいったら、ぜひとも食しておきたいのが、わさびご飯である。

 

もちろん、わさび茶漬けでもかまわないが、わさびご飯のほうが、わさび本来の風味をよりたのしむことができる。

 

つくり方はいたって簡単。買ってきたわさびを水で洗い、皮ごとすりおろす。温かいご飯のうえにわさびをチョコンとのせて醤油をひとたらしするだけ。

 

ご飯にのせるわさびの量は、あくまでチョコンでなければいけない。このチョコンをまちがえると、はじめてわさびご飯を食べる人はたいへんなことになる。

 

また、よくばって一度にたくさんのご飯を口にはこんでもいけない。すこしずつ、お上品に食べるのが肝心だ。

 

最初のひとくち目は、様子見。箸にご飯とわさびをわずかにのせて口へはこぶ。

 

すると、すぐさまツーンと脳天に突き抜けるさわやかな快感やってくる。子どもにはけっしてマネできない大人だけの食のたのしみ方だ。

 

ふたくち目からは、わさびご飯のうえにかつお節とごまを少々のせて食べるのが我流。これを邪道という人もいるかもしれないが、アナドルナカレである。かつお節のうま味とごまの食感がわさびの風味をよりいっそう引きたててくれる。

 

わさびをどれくらい口にはこぶかの加減がわかっているふたくち目は、ひとくち目よりも量を多めにしてもかまわない。だが度がすぎると、今度はツーンではすまない。

 

美味しいからといって調子にのっていきおいよく箸をすすめないことだ。そうでないと、ゲホゲホとむせることになるので注意したい。

 

それを誰かにみられたら醜態をさらすことになるし、いかにもわさびご飯を食べなれていないというふうにみられてよくない。

 

わさびご飯をいただくときは、平安貴族になった気分で優雅にいただきたいものだ。音楽は雅楽の越天楽の調べがよく似合う。

 

わさびご飯はもともと、わさび農家の人たちが日々の食事のなかでたのしんでいたものらしい。いまの世の中は有難いことに、そのような極めてマイナーな食文化でもテレビをとおして大衆につたえてくれる。

 

以前は、産地以外では料理屋でもないかぎり、生のわさびを手にいれることはむずかった。しかしこの頃は、近所にちょっと気のきいたスーパーでもあれば、庶民でも生のわさびが手にはいる。

 

わさびご飯は、わさびとご飯だけというシンプルさがいい。こんなに素材の味を活かした食べ方をする民族が、この地球上、われわれ以外にいるだろうか。もしいたら教えてほしい。

 

いつか、世界中を旅して外国人の友達ができたら、このわさびご飯の作法をぜひ教えたい。

 

その友達はきっと、「ワンダフル!」と叫んだあと、泣いてよろこぶだろう。